ロシア語を操る声優・上坂すみれ――鎌倉の才媛が切り拓いた「唯一無二」の道

可愛らしい声でアニメのヒロインを演じる人は数あれど、その口から流暢にロシア語が飛び出し、ソ連やロシア文化への愛を熱く語り出す声優となると、世界中を探してもおそらく一人しかいない。上坂すみれ。1991年12月19日、神奈川県鎌倉市に生まれた彼女は、声優・歌手・タレント・ラジオパーソナリティ、さらにはテレビプロデューサーまで、ひとつの肩書きに収まることを最初から拒んできた人物だ。
器用な人だ、と片付けるのは簡単だが、彼女の場合は少し事情が違う。器用さの背後に、上智大学で培った確かな知性と、自分の偏愛をそのまま職業の核に据えてしまう大胆さが同居しているからだ。本稿では、その不思議な魅力の輪郭をたどってみたい。
鎌倉から上智大学へ――声優らしからぬ経歴
古都・鎌倉に生まれ育った彼女は、上智大学へ進学する。声優という職業は専門学校や養成所から世に出る人が多いなか、難関大学で学問を修めたという経歴そのものが、すでに彼女の立ち位置を物語っている。
そこで彼女が深く学んだのがロシア語だった。これは単なる選択科目の域を超えていて、後に彼女の表現活動と分かちがたく結びついていく。可憐なアニメキャラクターを演じる声優が、ふとした瞬間にロシア文化への造詣を披露する――この振り幅こそが、誰にも真似できない彼女の個性の源泉になった。
声優アワード新人女優賞という証明
2016年、上坂すみれは声優アワードで新人女優賞を受賞する。これは見逃せない事実だ。なぜなら、彼女の魅力はともすると「ロシア好きの変わった人」というキャラクター性に回収されがちだが、この受賞は芝居の腕そのものが業界に認められた何よりの証だからである。
キャラの強さと演技力は、しばしば混同される。だが新人女優賞は、声という一点で勝負した結果としてもたらされたものだ。彼女がただの話題性の人ではなく、本物の表現者であることを、この一行が静かに保証している。
一人で何役も――肩書きが収まらない人
声優、歌手、タレント、ラジオパーソナリティ、テレビプロデューサー。彼女の活動領域はひとつの言葉では括れない。マイクの前で芝居をするかと思えば、自ら歌い、バラエティで言葉を回し、ラジオで聴き手とつながり、番組をつくる側にも回る。
これだけの引き出しを持ちながら、どの引き出しが「本体」なのか、見ている側にはなかなか分からない。それは弱点ではなく、むしろ彼女の設計図そのものだ。自分の関心の赴くままに領域を広げていった結果、誰のキャリアとも似ていない地図が描かれた。
偏愛を職業にした稀有な人
多くの表現者が「らしさ」を後付けで探すなか、彼女は最初から自分の好きなものを隠さなかった。ロシアへの愛も、独特の世界観も、そのまま仕事の核に据えてしまう。普通なら持て余すような偏りを、彼女は武器に変えた。
その結果生まれたのが、模倣不可能な独自ジャンルだ。何が好きでこんなに惹かれるのか、本人にもファンにも言語化しきれない――それでも気づけばハマっている。そういう引力を、彼女は確かに持っている。
鎌倉に生まれ、上智大学で学び、声優として頂点の一角に立ちながら、なお自分の偏愛を手放さない。上坂すみれという表現者は、才能と知性と大胆さが奇跡的な配合で混ざり合った、まさに唯一無二の存在だ。
可愛らしさとインテリジェンス、その狭間で読者を煙に巻きながら、彼女はこれからも誰も歩いたことのない道を進んでいくのだろう。