声で別人になる人――佐倉綾音の、つかみどころのない魅力

キャストリストに彼女の名前を見つけると、なぜか少しだけ安心する。「ああ、これは大丈夫だ」と。佐倉綾音とは、そういう信頼を集める声優である。
1994年1月29日、東京都に生まれた彼女は、アニメ・ラジオ・バラエティと幅広いフィールドで活躍してきた。その武器は、何人いるのかと問いたくなるほど自在に変化する声の引き出しだ。
声の引き出しの多さ
ツンツンしたキツめの女の子を演じたかと思えば、次の現場ではほわほわした天然キャラを違和感ゼロで成立させる。佐倉綾音の演技を追っていると、本当に同じ人物が演じているのかと疑いたくなる瞬間がある。
声優の表現とは、姿を見せずに人格を立ち上げる仕事だ。彼女はそのキャンバスを何枚も持っていて、作品ごとにまったく別の人間を描いてみせる。継ぎ目が見えないのが、なにより恐ろしい。
マイクの前と、素の親しみやすさ
東京都の出身でありながら、彼女の喋りはコロコロとよく変わり、聞いていて楽しい。だからこそラジオやバラエティといった「素」が問われる場でも引っ張りだこだ。
マイクの前でだけ別世界の住人になれる人なのに、素はめっぽう親しみやすい。この落差が、また人を惹きつける。演じる人格の多彩さと、本人の人懐っこさが、両輪となって彼女の魅力を支えている。
2018年、二冠という公式の証明
2018年、佐倉綾音は声優アワードで助演女優賞とパーソナリティ賞を同じ年に受賞した。これは偶然の重なりではない。
助演女優賞は「芝居が一級品である」ことの、パーソナリティ賞は「トークもまた一級品である」ことの公式な追認だ。二つの賞を同年に手にしたという事実が、彼女の二刀流をくっきりと裏づけている。
「当たり」の安心感
ファンが彼女に寄せる信頼は、煎じ詰めれば「ハズレがない」という安心感に行き着く。同じ作品に佐倉綾音の名を見つけると、観る前から「これは当たりだ」と勝手に思えてしまう。
それは派手な話題性によるものではなく、長く積み重ねた仕事の確かさが生んだものだ。声優・語り手として、彼女は静かに、しかし揺るぎなく信頼を築いてきた。
声だけでいくつもの人格を生み出し、マイクを離れれば親しみやすい一人の人間に戻る。その振れ幅の大きさこそが、佐倉綾音という表現者の核にある。
これからも彼女は、さまざまな作品にその声で命を吹き込み、私たちに「当たりだ」とつぶやかせ続けるだろう。