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七色の声を持つ男――山寺宏一が一人で背負う、いくつもの人生

山寺宏一(俳優・歌手)の写真

ドナルドダックの甲高い笑い声。ランプの魔人ジーニーの早口のマシンガントーク。青い宇宙生物スティッチの愛らしい唸り声。そして朝の子ども番組で見せる、気さくなお兄さんの優しい語り口。これらすべてが、たった一人の人間の喉から生まれていると言われて、すぐに信じられる人がどれだけいるだろうか。

山寺宏一。1961年6月17日、宮城県塩竈市に生まれた声優・俳優・歌手・ナレーター・ラジオパーソナリティである。「七色の声」と称されるその表現力は、もはや一人の人物の枠を軽々と越え、無数のキャラクターに命を吹き込み続けてきた。

声だけで人を笑わせ、泣かせ、世界を立ち上げる。そんな芸当を、彼は何十年にもわたって当たり前のようにやってのけてきた。

塩竈の港町から、東北学院大学へ

山寺宏一は宮城県塩竈市に生まれ育った。三陸の海と港の匂いに包まれたこの町は、彼の人柄ににじむあたたかさの原点なのかもしれない。地元の空気を吸って育った彼は、やがて東北学院大学へと進む。

華やかな芸能の世界とは縁遠い、地方の真面目な学生時代。だが、その内側には、声を使って人を楽しませたいという確かな衝動が育っていた。後に日本を代表する声の表現者となる青年は、まだこの頃、自分の声がどれほど多彩な役を演じ分けられるのか、その全貌を知らなかったはずだ。

「七色の声」という異名

山寺宏一を語るうえで欠かせないのが、その圧倒的な声の引き出しの多さである。「七色の声」という異名は有名だが、彼の実演に触れた人なら、七色という言葉ですら控えめに感じられるだろう。

カートゥーンのコミカルなキャラクターから、シリアスなドラマの主役まで。コメディの間(ま)も、緊張感のある芝居も、どちらも自在に行き来する。同じ一つの喉から、まるで別人のような声が次々と立ち上がってくるさまは、もはや技術というより一種の魔法に近い。

海を越えたキャラクターたちに、日本の声を

山寺宏一の仕事は、外国映画やアニメーションの吹き替えにおいて特に輝きを放つ。世界中で愛されるキャラクターに日本語の命を吹き込み、その個性をそのまま日本の観客へと届けてきた。

2020年、彼は声優アワードの外国映画・ドラマ賞を受賞した。これは、海外作品の登場人物を日本語で演じ分ける表現者としての力量が、改めて公に認められた瞬間だった。海を越えて生まれたキャラクターに、自然で生き生きとした日本の声を与える――その積み重ねが、評価という形で結実したのである。

富山敬賞が示すもの

2009年、山寺宏一は富山敬賞を受賞している。先達への敬意とつながりの中で受け継がれていく、声の表現の系譜。その流れの中に、彼の名がしっかりと刻まれていることを、この賞は静かに物語っている。

数々のキャラクターを演じ分ける一方で、彼はナレーターとして、またラジオパーソナリティとして、自分自身の声でも語り続けてきた。役を演じる声と、素のままで語りかける声。その両方を高い次元で操れることが、彼を単なる「声色の名人」以上の存在にしている。

画面の向こうの、気さくなお兄さん

意外に思われるかもしれないが、これだけの実力者でありながら、山寺宏一にはどこか肩の力の抜けた親しみやすさがある。朝の子ども番組に出れば、にこやかで気さくなお兄さんの顔を見せ、世代を問わず多くの人に愛されてきた。

宮城・塩竈で育った人柄のあたたかさが、その表情や語り口の端々ににじむ。圧巻の技術と、人懐っこい人間味。この二つが同居しているところに、彼が長く第一線で支持され続けてきた理由がある。

声優というカテゴリーには、もはや収まりきらない人である。ドナルドダックからジーニー、スティッチまで、一人で何人ぶんもの人生を演じ分けながら、その奥にはいつも宮城仕込みのあたたかさがある。

声だけで人を笑わせ、泣かせる。そんなことができる人は、そうそういない。「七色の声」を持つ男・山寺宏一は、これからも数えきれないキャラクターたちの心臓となって、私たちの記憶の中で鳴り響き続けるのだろう。