何でもできる男――星野源が音楽と芝居の両方を一流でやってのけるまで

川口に生まれた一人の青年が、どうやってこの場所までたどり着いたのか。物語は、自由の森学園での日々から始まる。
SAKEROCK――言葉のない音楽から
星野源は1981年1月28日、埼玉県川口市に生まれた。自由の森学園の中学・高校に通い、2000年、同校の同級生らとインストゥルメンタルバンド・SAKEROCKを結成する。歌のないバンドからキャリアを始めたというのは、後にあれほど言葉を大切にする彼を思うと興味深い。
大学は大阪芸術大学を受験して失敗し、進学しなかった。レールから外れた地点から、彼の表現は始まっている。SAKEROCKは2015年に解散するまで、彼の音楽的な土台であり続けた。
大人計画――舞台に魅せられて
転機は高校生の頃に訪れる。劇団・大人計画の舞台を観て感銘を受けた彼は、2003年にワークショップへ参加し、舞台「ニンゲン御破算」で俳優デビューを果たした。そのまま大人計画に所属する。
主宰の松尾スズキは、彼にとって演劇の師となった。音楽から芝居へと表現の幅を広げていく、その入り口に大人計画があった。ちなみに彼が敬愛するのは細野晴臣やクレイジーキャッツ。古き良き日本のエンターテインメントの血が、どこかに流れている。
くも膜下出血――生死の境からの帰還
2010年、1stソロアルバム「ばかのうた」で音楽家としてソロデビュー。順調に歩み出したかに見えた矢先の2012年、星野源はくも膜下出血で倒れる。入院し、二度の手術を受けた。
それでも彼は戻ってきた。しかも、しれっと。復帰後の2015年にはアルバム「YELLOW DANCER」がオリコン1位を獲得し、2018年の「POP VIRUS」へと続く、もっとも温かくファンキーな時期を生み出していく。生死の境をさまよった人とは思えないほど、淡々と名曲を量産してみせた。
「恋」と「真田丸」――2016年という頂点
2016年は、星野源にとって決定的な一年だった。ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で津崎平匡を主演し、主題歌「恋」は社会現象的な大ヒット。エンディングの「恋ダンス」はSNSで爆発的に広まった。
同じ年、彼は大河ドラマ「真田丸」で真田信繁(幸村)を主演で演じている。コメディタッチの恋愛ドラマの主役と、戦国の英雄。この二つを同じ年にこなす役者は、そういない。俳優としても2014年に日本アカデミー賞新人俳優賞、2021年には「罪の声」で優秀助演男優賞を受けるなど、評価は本物だ。2017年には文筆業も認められ、伊丹十三賞を受賞している。
2021年、星野源は女優・新垣結衣との結婚を発表した。全国の男たちが一斉に天を仰いだことは想像に難くないが、この組み合わせには、どこか妙な納得感もある。
音楽も芝居も文章も、すべてを一流でこなす。一度は死にかけて、それでも淡々と戻ってきて、また名曲をつくり続ける。インタビューでは妙に正直で、人見知りで、ときどき自虐する。そのどこか不器用な人間味こそが、この多才な男を、誰にも憎めない存在にしているのかもしれない。