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上様、サンバを踊る――松平健という振り幅の物語

松平健(歌手・映画俳優)の写真

凛々しい上様が、ある日突然、金ピカの衣装をまとって腰を振りながらサンバを踊り出す。そんな展開を、誰が予想できただろうか。だが、松平健はそれをやってのけた。一切のためらいもなく、満面の笑みで。

愛知県豊橋市に生まれ、工業高校を出た一人の青年が、時代劇のど真ん中で何十年も馬に乗り、晩年にはキラキラと輝く国民的アイコンへと化けた。その人生の転がり方は、まさに痛快というほかない。

上品な殺陣もできれば、アホみたいに陽気なサンバも全力でやれる。この振り幅の広さこそが、松平健という人物の最大の魅力である。

豊橋から始まった役者人生

松平健は1953年11月28日、愛知県豊橋市に生まれた。出身校は愛知県立豊橋工科高等学校。きらびやかな芸能の世界とは縁遠い、地方の工業高校に通っていた一人の若者だった。

そこから役者の道を歩み始め、1980年にはエランドール賞の新人賞を受賞する。これは、芸能界に新たな才能が現れたことを世に告げる勲章であった。地方出身の青年が、確かな一歩を踏み出した瞬間だった。

「暴れん坊将軍」という看板

松平健の名を不動のものにしたのが、時代劇「暴れん坊将軍」だ。凛々しく、品のある立ち居振る舞い。馬上の姿。鮮やかな殺陣。彼が演じる上様は、何十年にもわたって茶の間に届けられ、時代劇というジャンルの顔の一つとなった。

正統派の役者として、彼は時代劇のど真ん中を歩み続けた。長きにわたってその看板を背負えたのは、確かな演技力と存在感があったからにほかならない。2003年には菊田一夫演劇賞を受賞し、舞台人としての評価も確固たるものとした。

そして、マツケンサンバ

だが、松平健の物語はそこで終わらない。晩年、彼は「マツケンサンバ」で、まったく別の顔を世に示した。金ピカの衣装、腰を振るダンス、突き抜けるような陽気さ。普通なら恥ずかしくて逃げ出してしまいそうな世界観を、彼は一切のためらいなく全力で表現してみせた。

その突き抜け方は、もはや才能としか言いようがない。凛々しい上様のイメージを自ら笑い飛ばし、満面の笑みで「オレ・ハ・マ・ツ・ケ・ン!」と世界観を打ち抜く。多くの人が、テレビでマツケンサンバが流れた瞬間、思わず肩を揺らしてしまうのではないだろうか。

時代劇の正統派から、国民的なお祭りソングのアイコンへ。これほどの振り幅を、これほど自然に行き来できる役者は、そうそういない。

上品な殺陣と、底抜けに明るいサンバ。その両極を同じ一人の人間が全力でやり切る。人生はどう転ぶか分からないが、松平健はその転がりすらも、最高のエンターテインメントに変えてみせた。