歌を立たせるギター――松本孝弘という「鳴り」の物語

あるイントロを聴いただけで、誰が弾いているのかわかってしまうギタリストが、世の中にどれだけいるだろうか。日本の音楽史において最も売れたロックデュオB'zのギタリスト、松本孝弘は、その数少ない一人だ。
派手にステージの前に出て弾きまくるのではなく、歌が一番ええ顔で立つように音を置く。なのに、その音は誰よりも本人の声として響いてしまう。1961年、大阪府豊中市に生まれた一人の少年は、やがて世界でも勝負を仕掛けるギターヒーローになった。
大阪・豊中から始まった音
松本孝弘は1961年3月27日、大阪府豊中市に生まれた。星座は牡羊座、干支は丑。錦城高等学校に学んだことが、数少ない公開された経歴の一つである。
身長や血液型といった私的な情報の多くは非公開だが、それはこの人の在り方そのものを物語っているようにも思える。前へ前へと自分を売り込むのではなく、出す音で語る。大阪が生んだこのギタリストは、最初から「鳴り」で勝負する人だった。
B'zという現象
松本孝弘の名前は、ロックデュオB'zのギタリストとして広く知られている。B'zは日本の音楽史において最も売れたバンドであり、その巨大な成功の核に、松本のギターがある。
「裸足の女神」「太陽のKomachi Angel」「LOVE PHANTOM」「love me, I love you」――どれもイントロのギターが鳴った瞬間に、空気が変わる。歌が始まる前に、もう松本孝弘の世界が立ち上がっている。フックを書ける人、という言い方がいちばん近い。技巧をひけらかすためのフレーズではなく、聴く者の脳に直接届くメロディとしてのギターを、彼は鳴らし続けてきた。
弾きまくらない美学
速く弾けるギタリストは多い。だが松本孝弘の凄みは、弾けるのに弾きすぎないところにある。あくまで歌を一番ええ顔で立たせる――そのために、どこで引き、どこで前に出るかを知っている。
これは大人の弾き方だ。自分が主役になりたい欲を抑え、曲全体を生かすために音を選ぶ。それでいて、その抑制された音がまぎれもなく「松本孝弘の音」として鳴る。トーンが署名のように読める、という稀有な才能を、彼は持っている。
世界へ向かう腰の据わり方
公式サイトはHOUSE OF STRINGSを構え、活動の場は国内にとどまらない。日本で最も売れたバンドの中心にありながら、なお世界へ向けて勝負を仕掛けにいく――その腰の据わり方こそが、松本孝弘という人の本質かもしれない。
同じ大阪の人間として言わせてもらえば、ここまで来てもまだ世界で振り続けるその姿は、誇らしいの一言に尽きる。証明すべきものはもう何もないはずなのに、彼はまだ弾いている。
速く弾けることより、何を弾かないかを知っていること。自分を主役にすることより、歌を一番ええ顔で立たせること。松本孝弘のギターは、その選択の積み重ねでできている。
イントロが鳴った瞬間に「あ、松本さんや」とわかる。あれはもう、本人の声みたいなものだ。歌を一番に置きながら、最後まで完全に自分の音であり続ける――そういう弾き手を、ワイは心から尊敬する。