バイクの兄ちゃんから救命医まで――江口洋介、振り幅の大きさで愛され続ける男

革ジャンを羽織りバイクを乗り回す暴走族の青年。白衣をまとい、緊迫の現場で命をつなぎとめる救命医。この両極端を、どちらも完璧に成立させてしまう俳優がいる。江口洋介だ。
1968年元日、東京・豊島区に生まれた彼は、1980年代後半に登場するや、たちまち時代の顔となった。「東京ラブストーリー」「ひとつ屋根の下」「救命病棟24時」――90年代の日本のドラマ史は、彼の名前を抜きには語れない。チャラそうに見えて芯がまるでブレない、その不思議な安定感こそが、長く愛される理由だった。
俳優、そしてシンガーソングライター。歳を重ねるほど深まる渋さを携えた一人の男の歩みを追う。
湘南爆走族から始まった
江口洋介の俳優人生は、1986年のテレビドラマ「早春物語〜私、大人になります〜」から始まる。知人の紹介で芸能事務所に所属した、ごく普通の青年のスタートだった。
転機は翌1987年。映画「湘南爆走族」で主人公・江口洋助役に抜擢されると、その長身と甘いマスクは一気に全国的な知名度を獲得する。185センチの恵まれた体躯と、どこか掴みどころのない自由な空気。彼は最初から、「型にはまらない若者」を演じさせれば天下一品だった。
1991年、トレンディドラマの時代へ
1991年、江口は時代の真ん中に躍り出る。「東京ラブストーリー」で三上健一を演じ、同年の「101回目のプロポーズ」にも出演。恋愛ドラマが社会現象になった、いわゆるトレンディドラマ全盛期に、彼は欠かせない存在となった。
この年の演技は翌1992年、第1回TV-LIFE年間ドラマ大賞の助演男優賞という形で評価される。甘い二枚目でありながら、どこか影を背負った男を演じられる――その奥行きが、単なる人気俳優との違いを生んでいた。
「ひとつ屋根の下」――日本中を泣かせた兄
1993年、江口は連続ドラマで初めて主演を務める。「ひとつ屋根の下」。両親を失い、離散した兄弟を再びひとつ屋根の下に集めようと奮闘する長男・あんちゃんを演じたこの作品は、最高視聴率37.8%という驚異的な数字を叩き出した。
不器用で、まっすぐで、家族のために体を張る「あんちゃん」は、江口の代表的な当たり役となった。チャラさと熱さ、軽さと一途さ――相反するものを一人の人間の中に同居させる彼の持ち味が、最も幸福な形で花開いた瞬間だった。日本中がブラウン管の前で涙した。
白衣をまとった進藤――「救命病棟24時」
1999年、江口はまた新たな顔を見せる。医療ドラマ「救命病棟24時」で、命の現場に立つ医師を演じたのだ。バイクの兄ちゃんとは正反対の、冷静で揺るがない人物像。だが芯がブレないという江口の本質は、ここでも見事に生きた。
このシリーズで彼は、1999年・2001年・2005年と、ザテレビジョンドラマアカデミー賞の主演男優賞を三度受賞する。一つの役を長く演じ続け、そのたびに高く評価される――俳優としての確かな実力を、彼はこのシリーズで証明してみせた。同じ1999年、彼は歌手の森高千里と結婚し、私生活でも新たな章を開いている。
渋さを深めながら、自由に
2000年代以降も、江口の活躍は止まらない。2003年「白い巨塔」、2008年「闇の子供たち」、2012年「るろうに剣心」と、出演作は多彩を極める。若い頃の甘さは消え、代わりに年輪を重ねた渋さと色気が、画面に深みを与えるようになった。
俳優業のかたわら、彼はシンガーソングライターでもある。2016年には音楽活動を再開し、ギターを抱えて歌う姿を見せた。サーフィン、バス釣り、ツーリング、料理――公私ともに人生を満喫するその生き方は、「いい歳の重ね方をしている男」そのものだ。
バイクの兄ちゃんから救命医まで、甘い二枚目から渋い大人まで。江口洋介の魅力は、その振り幅の大きさと、どれを演じても揺るがない一本の芯にある。
「仕事は人にエネルギーを与えるものでなければならない」と彼は語ったことがある。スクリーンの向こうから確かにエネルギーを送り続けてきたあんちゃんは、今もなお、歳を重ねるほどに格好よくなっていく。