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パステルの王道を一分の隙もなく――渡辺麻友という「正統派」の完成形

渡辺麻友(歌手・声優)の写真

正統派アイドル。便利な言葉だが、実際にその四文字を文句なく背負えた人は、思いのほか少ない。歌って、踊って、笑って、ファンの夢を一ミリも壊さない。言葉にすれば簡単だが、それを毎日、何年も、隙なくやり切るのは並大抵のことではない。

埼玉県に生まれた渡辺麻友は、その難題を、まるで最初からそう生まれついていたかのように軽々とこなしてみせた。1994年3月26日生まれ、牡羊座。彼女がニコッと笑うと、画面の中の世界がパステルカラーに染まる――そう錯覚させる力が、たしかにあった。

歌手、声優、モデル、俳優。器用に渡り歩いた多才な人だが、この記事で語りたいのはそのスキルの幅だけではない。表面の甘さの下にあった、静かで冷静な「職人」の横顔である。

埼玉から、王道のど真ん中へ

渡辺麻友は埼玉県の出身だ。そこから、彼女は日本中が知るアイドルグループ・AKB48の中心へと駆け上がっていった。

数多のメンバーがしのぎを削るグループの中で、彼女が担ったのは「正統派」というもっとも王道で、もっともごまかしの効かないポジションだった。奇をてらわず、可愛さを真正面から引き受ける。そのまっすぐさが、彼女を一時代の象徴的な存在へと押し上げていった。

甘さが、イヤミにならないという奇跡

いわゆる「ぶりっこ」――愛らしさを前面に出す振る舞いは、紙一重で鼻につくものになりやすい。少しでも作為が透けると、見る側はスッと冷めてしまう。

ところが渡辺麻友のそれは、不思議とイヤミにならなかった。あの大きな瞳でこちらを見つめ、甘く愛らしく振る舞っても、見る者の心がしらけない。これは、簡単そうに見えてとてつもなく難しい芸当だ。彼女はその綱渡りを、まるで地面を歩くように涼しい顔でやってのけた。

多才、そして「職人」の横顔

歌手として歌い、声優として声を当て、モデルとして装い、俳優として演じる。渡辺麻友はそのどれもを器用にこなした。

だが彼女を語るうえで本当に面白いのは、その器用さの源にあった冷静さだ。表面はあくまで甘く柔らかいのに、その奥には、ファンの抱く夢をひとつの「作品」として丁寧に守ろうとする職人気質があった。華やかなパステルの表面の下で、ひとつ冷えた頭が全体を回している――そういう人だったのだと思う。

品のある、引き際

彼女の歩みでもうひとつ印象的なのが、その身の引き方である。

アイドルという華やかでにぎやかな世界に長く身を置きながら、彼女はある時、ちょうど良いところでスポットライトからスッと身を引いた。騒がず、もめず、スキャンダルで物語を汚すこともなく。卒業後はプライベートを静かに守り、表舞台から距離を置いた。自分の物語を、自分の手できれいに畳んでみせたのだ。

正統派アイドルを「絵に描いたように」完璧にやり遂げ、最後まで品を保ったまま舞台を降りる。これは、にぎやかな世界の真ん中にいた人にできることとしては、驚くほど稀有なことだ。

渡辺麻友という人を思い出すとき、浮かぶのはパステルカラーの笑顔と、その裏にあった静かな矜持である。甘く、しかし芯は冷静で、引き際まで美しかった。そういうアイドルが、たしかにいた。