笑いの裏方から涙の物語へ――百田尚樹という止まらない男

大阪・東淀川に生まれた根っからの浪速っ子。なのに、彼の書く小説はやたらと涙腺を直撃してくる。放送作家として長年テレビの裏で笑いを量産していたかと思えば、ある日突然、戦争を題材にした小説で勝負をかけ、本屋大賞までさらってしまった。
百田尚樹という人物を一言で言い表すのは難しい。小説家、放送作家、テレビプロデューサー、YouTuber、そして政治家。次々と肩書きを増やし、何歳になっても新しい喧嘩を買いに行く。その尽きないエネルギーの源を、彼の歩みからたどってみたい。
浪速の子、同志社へ
百田尚樹は1956年2月23日、大阪府東淀川区の生まれ。奈良県立添上高等学校を経て、同志社大学に進んだ。
関西で育ち、関西の言葉と空気を吸いながら大人になった彼の感性には、笑いと人情が深く根を張っている。やがてその感性は、まずテレビの世界で開花することになる。
テレビの裏で笑いを量産する日々
小説家になる前、彼が長く身を置いたのは放送作家の世界だった。表に名前が出ることは少なくとも、番組の笑いを設計し、テレビの裏側で量産し続ける――それが彼の仕事だった。
笑いの間合いを知り尽くすこと。視聴者の心がどこで動くかを読むこと。この放送作家としての修練が、のちの小説に思いがけない形で生きてくる。喜劇の技術を、感動の物語へと転用する。それもまた、ひとつの稀有な才能である。
小説家への転身、そして本屋大賞
ある日、彼は小説で勝負をかけた。代表作となった『永遠の0』『海賊とよばれた男』をはじめ、その物語は多くの読者の胸を打ち、ベストセラーとなった。
そして、書店員たちが選ぶ栄誉ある本屋大賞を受賞する。いい歳のおじさんがハンカチを握りしめて読みふけってしまう――そんな力を持った物語を、彼は次々と生み出していった。『影法師』『殉愛』『カエルの楽園』と、作風の幅も広い。人の心の動かし方を知り尽くした書き手だからこそ、なせる業だった。
政治、そしてYouTubeへ
小説で売れた勢いのまま、彼は政治の世界にまで足を踏み入れた。さらにYouTubeでも精力的に発信を続け、自らの意見をガンガン語る。
その発言には賛否が渦巻く。立場によって受け取り方は大きく分かれるだろう。それでも、ひとつ確かなことがある。彼は決してじっとしていられない性分なのだ。ひとつの成功に安住せず、つねに新しい舞台へと飛び込んでいく。
止まらないエネルギーの正体
放送作家から小説家へ、小説家から政治家・YouTuberへ。彼の人生は、転身の連続だ。普通なら一つの分野で名を成せば、そこに腰を据えるものだろう。だが彼は違う。
何歳になっても、新しい喧嘩を買いに行く。賛否があることを承知のうえで、それでも前へ出ていく。そのエネルギーの正体は、おそらく「飽くなき好奇心」と「じっとしていられない性分」の混じり合ったものなのだろう。
笑いの裏方として始まり、涙の物語で頂点に立ち、いまもなお新しい戦場へと向かっていく。百田尚樹の歩みは、評価が大きく分かれる人物のものでありながら、その底にある途方もないエネルギーだけは、誰もが認めざるを得ない。
何屋さんなのか、と問いたくなる。けれど、その問い自体が無粋なのかもしれない。彼はただ、止まらない男なのだ。