静けさで語る少年──黒川想矢、カンヌへの道

台詞の少ない場面。けれど、その目と表情だけで、すべてが伝わってくる。ベテラン俳優でもなかなか出せない「間」を、まだ十代前半の少年が涼しい顔でやってのける。是枝裕和監督の映画『怪物』で世に出た黒川想矢を初めて観た者は、おそらく一様にこう思う──この子は、いったい何者なのか。
2009年12月5日、埼玉県生まれ。どこにでもいそうな普通の男の子が、気づけばカンヌの舞台に立っていた。これは、静けさという武器で世界を驚かせた、一人の若き俳優の物語である。
埼玉の普通の男の子
黒川想矢は2009年12月5日、埼玉県に生まれた。子役として、そして俳優として歩み始めた彼の出自は、ごく当たり前の日本の少年のものだ。特別な肩書きも、華やかな前歴もない。
だからこそ、その後の飛躍は鮮烈だった。普通の場所から、世界が注目する舞台へ。人生というのは、本当に何が起きるか分からない。
『怪物』という衝撃
転機は、是枝裕和監督の2023年の映画『怪物』だった。繊細でヒリヒリとした役どころを、彼は子役の演技という枠を超えたレベルで演じきった。観客と批評家の双方が、その演技に息をのんだ。
子どもが「上手に演じている」のではない。一人の俳優として、確かにそこに存在している。そう感じさせる力が、まだ中学生ほどの年齢の彼には備わっていた。末恐ろしい、という言葉がこれほど似合う若手も珍しい。
目と表情で語る演技
彼の真骨頂は、台詞のない場面にこそ現れる。多くを語らない瞬間、目と表情だけで感情のすべてを観客に届けてしまう。間の取り方、沈黙の使い方──それはベテランでもなかなか到達できない領域だ。
静けさで語る。引き算で見せる。年齢を二倍にしても届かないような俳優が珍しくない中で、彼は早くもその境地の入り口に立っている。
カンヌの舞台へ
『怪物』は国際的に高く評価され、黒川想矢は世界の映画ファンの目に触れることになった。埼玉の普通の男の子が、気づけばカンヌ国際映画祭の舞台に立っている。その軌跡は、まるで作り物のように現実離れしている。
だが、それは紛れもない現実だ。彼の演技が、彼自身をその場所へと連れて行った。
これから彼がどんな大人の俳優へと変わっていくのか。今はまだ誰にも分からない。けれど、分からないからこそ面白い。
静けさで世界を驚かせた少年の、これからの長い道のりを、そっと見守っていきたい。