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小さな体に、強い芯――aikoが30年歌い続ける「恋のざわめき」

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カラオケのリモコンで誰かが「カブトムシ」を入れる。イントロが流れ、「生まれて おちた日から…」と歌い出した瞬間、その部屋の空気が変わる。誰もが一度は経験したことのある、あの不思議な現象。それがaikoという歌手の持つ魔法だ。

身長152センチ、スヌーピーを愛し、ポテトチップスを頬張る。見た目はあくまで小さく愛らしい。けれど彼女が紡ぐ言葉とメロディには、恋をしているときの胸のざわめき、切なさ、もどかしさが、驚くほど生々しく宿っている。デビューから一貫して、すべての曲を自ら作詞作曲してきた――その事実が、あの可愛らしさの奥にある強い芯を物語っている。

大阪・吹田から、歌の道へ

aiko、本名・柳井愛子は1975年11月22日、大阪府吹田市に生まれた。大阪府立東淀川高等学校を経て、大阪音楽大学短期大学のポピュラー声楽専攻へ。音楽を専門的に学んだ土台が、後の彼女の表現を支えることになる。

最初の扉を開いたのは1995年、「第9回TEENS' MUSIC FESTIVAL」でのグランプリ受賞だった。これをきっかけに彼女はプロへの道を歩み始める。1997年12月にはインディーズアルバム「astral box」をリリースし、翌1998年7月、シングル「あした」でメジャーデビューを果たした。

「花火」「カブトムシ」――時代を射抜いた1999年

彼女の名前を一気に広めたのは1999年だった。シングル「花火」、そして「カブトムシ」が相次いでヒット。とりわけ「カブトムシ」は、その後カラオケのバラード定番として長年ランクインし続ける、世代を超えた名曲となった。

2000年にはシングル「ボーイフレンド」でNHK紅白歌合戦に初出場。2001年にはアルバム「桜の木の下」がミリオンセラーを達成し、同作で第15回日本ゴールドディスク大賞のロック・アルバム・オブ・ザ・イヤーに輝く。翌2002年も「夏服」で同賞を連覇した。恋の機微を歌う彼女の世界は、確かに時代の中心にあった。

すべては自分の言葉で――作り続ける人

aikoの最大の特徴は、デビューから一貫して全楽曲を自身で作詞作曲していることにある。流行に合わせて誰かが用意した曲を歌うのではなく、自分の内側から湧き出る感情を、自分の手でメロディと言葉にする。だからこそ、彼女の歌はどこまでも本物の温度を持っている。

可愛らしい笑顔と、コブシの効いた歌声。スヌーピーグッズを集め、ポテトチップスを愛する飾らない人柄。その親しみやすさの一方で、四半世紀以上もずっと「作り手」であり続ける覚悟は、並大抵のものではない。チャーミングさと強い芯――この二つの同居こそが、aikoという表現者の核心だ。

25年を越えて、なお更新され続ける現在地

キャリアが長くなっても、aikoは過去の人にならなかった。2018年にはシングル「ストロー」でMTV VMAJの最優秀邦楽女性アーティストビデオ賞を受賞。2020年には主要音楽配信サービスへの楽曲解禁という大きな決断を下し、新しい世代のリスナーへと扉を開いた。

2023年にはデビュー25周年を迎え、MTV VMAJ 2023でBest Solo Artist Video -Japan-とAlbum of the Yearの2冠を達成。2024年にはシングル「相思相愛」をリリースし、再びNHK紅白歌合戦の舞台に立った。プライベートでは2020年に一般人男性と結婚(2021年に公表)。歌う愛の解像度は、人生とともに今も更新され続けている。

恋をしているときのあの落ち着かない気持ちを、これほど正確に、これほど切なく音楽にできる人は多くない。aikoの歌を聴いていると、自分のものではないはずの恋の記憶まで、なぜか胸の奥がきゅっとなる。

小さな体に宿る、揺るがない作り手の芯。30年近く、自分の言葉だけで愛を歌い続けてきたこのシンガーソングライターは、これからも誰かの恋のざわめきにそっと寄り添っていくに違いない。