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雨と犬と銃——押井守という「教官」の正体

押井守(アニメーション映画監督・映画監督)の写真

世界中のクリエイターが頭を下げる映画がある。1995年の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』。サイバーパンクの金字塔として、いまも世界の映像作家に影響を与え続ける一本だ。

ところが、それを撮った男に話を聞けば、出てくるのは犬とエアガンの話ばかりだという。熱海でバセットハウンドを連れて散歩し、サバイバルゲームに興じる——それが押井守という人物の、もうひとつの顔である。世界的巨匠でありながら、終始どこか「サバゲーのおっちゃん」のような気配を漂わせる。その捉えどころのなさこそが、彼の作品の難解さと、奇妙な中毒性の正体なのかもしれない。

美術教師志望から、アニメの現場へ

押井守は1951年8月8日、東京都大田区大森に生まれた。獅子座。父は山形出身で探偵業を営む映画好き、四人兄弟の末っ子という、どこか物語めいた家庭環境で育った。

東京都立小山台高等学校を経て、東京学芸大学教育学部美術教育学科を1976年に卒業。本来は教育の道だったが、彼が選んだのはアニメーションだった。1977年にタツノコプロダクションへ入社し、演出家としてキャリアをスタートさせる。

『うる星やつら』と『ビューティフル・ドリーマー』

1979年にスタジオぴえろへ移籍し、『ニルスのふしぎな旅』のレギュラー演出を担当。やがて1981年からの『うる星やつら』TVシリーズでチーフディレクターを務める。

転機は1984年の劇場版『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』だった。終わらない学園祭前日のループという奇妙な世界を、押井は哲学的な問いへと変えてみせる。原作の枠を大きくはみ出したこの作品は賛否を呼びながらも、彼が「ただのアニメ職人」ではないことを強烈に示した。以後、彼はフリーランスとして独自の道を歩み始める。

攻殻機動隊——世界を震わせた一本

1988年、OVA『機動警察パトレイバー』の企画に参加して監督に復帰。1989年の劇場版『パトレイバー the Movie』は第7回日本アニメ大賞を受賞し、彼は活動拠点をProduction I.Gへと移していく。

そして1995年、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』が公開される。雨に濡れた未来都市、反射する水面、肉体と魂、記憶とアイデンティティ。登場人物は物語の手を止めてまで延々と哲学を語る。観る者は「で、結局なんやねん」と戸惑いながら、その「分からないのに凄い」という感覚に絡め取られていく。一度ハマれば抜けられない。世界中の映像作家が、この一本にひれ伏した。

カンヌへ、そして犬のもとへ

2001年には日本・ポーランド合作の実写映画『アヴァロン』を発表。2004年の『イノセンス』は、日本のアニメ映画として初めてカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、第25回日本SF大賞を受賞した。2008年の『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』はヴェネツィア国際映画祭のコンペティションに出品されている。

世界の映画祭に名を連ねる巨匠。それでいて同じ2004年、彼が世に出したもう一冊の本は『犬の気持ちは、わからない —熱海バセット通信—』。最前線で戦いながら、傍らにはいつも犬がいる。それが押井守という人だ。

「自分から降りるな。戦って降ろされろ」。彼の信条は、頑固な親父そのもののようでいて、妙に筋が通っていて格好いい。映像で世界を震わせる一方、口を開けば犬とミリタリーの話。そのギャップは演出ではなく、おそらく本当に地のままなのだ。

難解で、哲学的で、何度観ても答えをくれない。それでも観てしまう。世界に名だたる巨匠でありながら、終始サバゲーのおっちゃんの気配を抜かないこの「教官」は、これからも自分から降りることはないだろう。